あるマンガ誌の編集者を訪ねた。
マンガ原作を持ち込むためだ。
いま、子どもも大人も欲しいのは、金の作り方だ。
だから、その作り方に伴走する少年を主人公にし、一緒に仕事づくりに精を出し、金がないことで被る不自由から解放されるスカッとした話にした。
ところが、僕の会った若い編集者は、「うちのマンガ誌は富裕層向けなんです」と言った。
どうりで、部数が落ちているんだな、と僕は納得した。
日本の中流資産層は、どんどん貧困化している。
その現実に向き合わず、「子どもには起業はムリだ」と平気で言えるのは、生活に困っていない所得層だけだ。
その編集者も、生活に困らない生い立ちで、貧困化する深刻な現実を幼い頃から見たことが無いのだろう。
大手の出版社に入れるのは偏差値70以上の高学歴層で、幼稚園から私立に通い、友達はみんな富裕層の子であり、現在も高所得層の身分なのだから、彼らの作るマンガ誌が「富裕の子」向けになってしまうのは、その編集者のせいではない。
子どもは、生まれる親も家も選べないからね。
僕は、その編集者の生い立ちに同情する。
先輩社員から必要な教えを受けていないことにも、同情する。
彼が今後も高所得の正社員として暮らし続ければ、マンガ誌が売れなくなっても、生活に困ることはないだろう。
読者のニーズからズレてしまっても、面白いマンガを生み出せなくても、彼らは何も困らないわけだ。
日本のマンガは、そういう編集者によって、殺されていくのかもしれない。
